男と女、夫と妻

いかなる時代の夫婦にしたって、男と女、夫と妻とが、生理的にちがっていることはじゅうぶん知っています。これはあえて説明するまでもありません。ところで、人間は、生理と心理とが 深くからみ合ったじつに複雑怪奇な生物です。生理は心理に影響を与えます。狭心症は精神的ショックからしばしば発病します。そこで、妻の生理を知っている夫は、本来ならば、生理に伴なう心理をも知っているのでなければいけないはずです。だが、いままで、妻の生理にともなう心理を知ろうとしたような夫が、はたしてひとりでもいたでしょうか!早い話が、諸君の姿が妊娠したと仮定します。自分のお腹の中にひとりの小さな人間がいて、その人間が毎日手をつっぱったり足をのばしたりするlこういうとき、いったい人間はどんな気持がするもんだろう、こう考えてくれたような、思いやりと想像力に富んだ夫がかつていたでしょうか。かりにいたとしても、その思いやりに富んだ夫は、彼が男性であるかぎり、これをおそらく空想することもできない筈です。背中に一応の虫が這っていても異様な感じのするものです。歯医者のところで、たまたま医者の手が口中に入ったとき、どんなに変テコな気持がするものか。まして自分の下腹部に生き物がいて、それが動くのです。lこういう感覚、女だけの経験する感覚は、過半の男性には想像を絶していると思います。そこで、妊娠した妻に向って夫は、じつに、馬鹿のひとつ覚えみたいに、なるたけ安静にして、栄養物をとって、適当に運動してうんぬんと、田舎のヤブ医者そっくりの好い加減なことしかいえぬのです。妻にしてみれば、なんと通りいつぺんの男だろうと、イヤでも考えずにはおれなくなります。妻と夫はこうしてまったく別左の世界に住んでいるのです。これではいけないのです。おなじことは、会社で上役に叱られたとき、夫がどういう感じをもって家に帰るとか、いうこ とについてもあてはまります。妻は「さぞイヤだったでしょうね!」と通りいっぺんにいうだけです。これではしょせん、ふたりのよき仲間、。ハートナーとはいえますまい。

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